東京地方裁判所 平成3年(行ウ)54号 判決 1992年8月28日
原告
細野俊夫
被告
青梅労働基準監督署長岡野興寿
右指定代理人
山田好一
同
村山行雄
同
倉下勝司
同
池田俊夫
同
佐藤傳
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一原告の請求
被告が昭和六二年一月二三日付けで原告に対してした障害等級一四級の九相当の障害補償給付支給処分を取り消す。
第二事案の概要
一 本件は、被告が原告の残存障害を障害等級一四級の九と認定したうえで、これに相当する障害補償給付支給処分をしたところ、原告が、右障害は右等級を超えるものであるから違法であると主張して、その処分の取消を求めた事案である。
二 争いのない事実
1 原告は、昭和五七年九月二一日シルク印刷機等の製造を目的とする株式会社クニトモに機械工として雇用され、同社羽村工場において、シルク印刷機の印刷台の加工作業に従事していたが、昭和五九年一〇月一五日午前一〇時頃、加工のためにアルミ製大型盤板(印刷台重量約五〇キログラム)運搬用の台車から穴開け用機械に移し換えようとして持ち上げた際、左足の膝関節を痛めた(以下「本件事故」という。)。
2 原告は、(一)昭和五九年一一月二日から昭和六〇年四月三〇日まで山口外科医院に受診して左膝関節痛(捻挫の疑い)の診断名で、(二)昭和六〇年五月一日から昭和六一年三月三一日まで青梅市立総合病院に受診して左膝内障の診断名で、(三)昭和五九年一二月一日から昭和六一年八月四日まで野村病院に受診して左膝関節内障(捻挫)の診断名でそれぞれ治療を受けてきたが、昭和六一年八月四日、左膝部に疼痛等の神経症状が残存する状態で病状が固定し治ゆした。
3 原告は、昭和六一年九月三日、左膝関節に障害が残存するとして、被告に対し、労働者災害補償保険法に基づく障害補償給付の請求を行ったところ、被告は、原告に残存する障害は同法施行規則一四条別表第一に定める障害等級(以下「障害等級」という。)一四級の九の「局部に神経症状を残すもの」に該当すると認定し、昭和六二年一月二三日付けで同等級相当額の障害補償給付を支給をする旨の処分(以下「本件処分」という。)をした。
4 原告は、本件処分に不服があるとして、東京労働者災害補償保険審査官に対し、昭和六二年三月二四日付けで審査請求をしたが、同審査官は、昭和六三年二月二二日付けで右審査請求を棄却する旨の決定をした。更に、原告は、右審査官の決定に不服があるとして、労働保険審査会に対し、昭和六三年四月二〇日付けで再審査請求をしたが、同審査会は、平成二年一一月九日付けで右再審査請求を棄却する旨の裁決をし、同裁決書は、平成二年一二月六日、原告に送達された。
第三争点及び当事者の主張
一 争点
1 原告の左膝部に残存する疼痛等の神経症状が障害等級一二級の一二(局部にがん固な神経症状を残すもの)に該当するか、それとも障害等級一四級の九(局部に神経症状を残すもの)に該当するにとどまるか。
2 原告の左膝関節に機能障害が存在し、これが障害等級一二級の七(関節機能に障害を残すもの)に該当するか。
二 原告の主張
1 原告の左膝部に残存する疼痛等の神経症状は、労働省労働基準局長通達(昭和五〇年九月三〇日付け基発第五六五号及び昭和五六年一月三一日付け基発第五一号以下、「認定基準」という。)の「労働には通常差し支えないが、時には強度の疼痛のため、ある程度差し支える場合があるもの」と認められるから、障害等級一二級の一二に該当する。その理由は、以下のとおりである。
(一) 原告は、昭和六一年八月四日の病状固定後、左膝関節の疼痛等の神経症状が消退せず、長時間歩行後、重量物保持時、階段の昇降時、自転車に乗って坂道を足に力を入れてのぼる時などに痛みがあった。そのため、原告は、生活上も不自由であるうえ、重量物を扱う仕事、自動車の運転、ペダルを踏む機械の仕事等に従事することが困難となり、その労働能力が大幅に低下した。
また、原告は、昭和三四年頃から二五年間にわたる重量物(二〇キログラム以上)を扱う重激な作業によって、左変形性膝関節症に疾患し、本件事故によってその症状が発症した。したがって、原告の右神経症状はエックス線写真から明らかに認められる左変形性膝関節症に起因するものであり、右神経症状を医学的に証明しうる他覚的所見も存在する。
(二) 仮に、原告の傷病が左変形性膝関節症でなく左膝関節内障であったとしても、受傷部位である左膝部の神経症状が消退せず、重量物保持時及び階段の昇降時などに左膝関節に痛みがあるため、原告の残存障害は、少なくとも障害等級一二級の一二かそれ以上に該当する。
2 原告の残存障害は、左膝関節に左変形性膝関節症などの器質障害が存在し、かつ認定基準の「通常の労働には固定装具の装着の必要がなく、重激な労働等に際してのみ必要ある程度のもの」と認められるから、少なくとも障害等級一二級の七に該当する。
三 被告の主張
1 原告の残存障害は、認定基準の「労働には差し支えないが、受傷部位にはほとんど常時疼痛を残すもの」に準じた障害と認められるから、障害等級一四級の九に該当するにとどまる。その理由は、以下のとおりである。
(一) 原告の残存障害について、野村病院野村二郎医師は、障害補償給付支給請求書添付の診断書において、(一)療養の内容及び経過について、エックス線に特異なものなし、膝関節下部に圧痛を訴える、リハビリ及び薬物治療継続、(二)治ゆ時点の障害の状態について、自覚症状として疼痛自発、圧痛があるが、局所腫脹及び運動制限は認められない、と診断している。また、被告が本件処分に先立って意見を求めた東京労災病院医師栗国順二医師、本件処分後審査官が鑑定を求めた関東労災病院安藤正医師は、いずれも原告を診察したうえで、他覚的所見の乏しい膝関節痛であり、左膝部に神経症状を残す程度のものである、との意見を述べている。
(二) 原告が他覚的症状として主張している変形性膝関節症は、一般的には加齢変化によるものであり、長期間の過激なスポーツ、特殊な労作、事故、リュウマチ及び骨壊死等の疾患により、あるいは、膝内障による関節の動揺性の残存及び半月板の障害により二次的に発症することもある。原告の場合、治ゆ時点で膝関節の動揺性及び半月板の障害等の所見が存在しないこと、変形性膝関節症は昭和五八年三月から昭和五九年一〇月までの間の株式会社クニトモにおける作業期間及び負担の程度では発症しないこと、就労によって変形性膝関節症が発症する場合にはより明らかな他覚的所見やエックス線所見を得られるところ、本件事故後に受診した各診療機関におけるエックス線写真では加齢による変化以上のものは認められないことからすれば、仮に、原告に残存する神経症状が変形性膝関節症に起因するとしても、本件事故との間には因果関係がない。
2 原告の左膝関節に機能障害はない。障害等級一二級の七に該当するためには、関節の運動可能領域が健側の四分の三以下に制限されていることを要するが、原告の左膝関節の運動可能領域は正常範囲であるから、原告の残存障害は右等級には明らかに該当しない。
第四争点に対する判断
一 本件事故後の診療経過(<証拠略>)
1 原告は、昭和五九年一一月二日から六〇年四月三〇日までの間、山口外科病院を受診し、左膝関節痛(捻挫の疑い)との診断を受けた。その際の所見によれば、主訴として左膝関節痛があったのみで、他覚的所見は認められず、腫脹なし、安定性良好、靱帯及び半月板損傷なし、膝関節水(血)腫マイナスであり、エックス線写真にも異常はなかった。
2 その後、原告は、昭和六〇年五月一日から六一年三月三一日までの間、青梅市立総合病院において、左膝内障の診断名で治療を受け、昭和六一年五月一九日、野村病院に転院し、左膝関節内障(捻挫)との診断を受け、その際の所見は、膝関節下部に圧痛、エックス線写真に異常なし、というものであった。原告は、同病院において、昭和五九年一二月一日から昭和六一年八月四日までリハビリ及び薬物治療を継続してきたが、昭和六一年八月四日治ゆの診断を受けた。治ゆ時点の原告の障害の状態は、局所腫脹及び運動制限は認められず、自覚症状として、(一)疼痛自発、圧痛、(二)足を使う仕事ができない、(三)労働能力が低下した、(四)生活上の不自由を感じる、というものであった。
3 本件処分後、原告は、平成三年三月一四日国家公務員等共済組合連合会立川病院、平成三年六月一日野村病院、平成三年七月三〇日日本医科大学第一病院、平成四年二月三日医療法人健生会立川相互病院を受診し、いずれも左変形性膝関節症であるとの診断を受けた。
二 原告に残存する障害の医学的所見について(<証拠略>)
1 本件処分にあたって、被告が意見を求めた東京労災病院栗国順二医師は、原告を診察したうえで、傷病名として左膝関節内障、主訴及び自覚症として左膝関節痛、他覚的所見及び検査成績として、エックス線写真及びラジオアイソトープに異常所見なし、関節水腫なし、腫脹なし、動揺関節なし、運動制限なし、太腿周径でわずかに左が細い、総合意見として、他覚的所見に乏しい膝関節痛であり、その障害は障害等級第一四級の九(局部に神経症状を残すもの)を適当と考える、との所見及び意見を述べている。
2 本件処分後、関東労災病院安藤正医師は、労働者災害補償保険審査官に対する鑑定書において、原告を診察のうえ、傷病名として左膝関節内障、主訴として、(一)重い物を持つと左膝ががくがくする、(二)駅の階段をのぼる時、自転車で坂道をのぼるときに左膝が痛む、他覚的所見及び検査成績として、左膝関節腫脹なし、膝蓋跳動なし、マックマレー症候等の半月板障害の徴候なし、膝関節の不安定性なし、関節可動域左〇度から一三五度(右〇度から一三五度)、左膝大腿骨内果部及び膝蓋靱帯の膝蓋骨付着部に圧痛あり、エックス線写真に明らかな異常所見なし、総合意見として、左膝部に神経症状を残す、との鑑定意見を述べている。
3 国家公務員等共済組合連合会立川病院田中守医師は、左変形性膝関節症である旨の同病院山下裕医師作成の平成三年三月一四日付け診断書(<証拠略>)の内容及び原告の残存障害の状態について、次の意見を述べている。
(一) 主訴として、左膝痛(特に、重量物保持時又は運動時痛)、他覚的所見として、左膝関節の可動域は正常であり、腫脹・圧痛・熱感・膝蓋骨跳動等なし、半月板及び靱帯障害の徴候は認めない、大腿四頭筋の筋萎縮は認めない、総合的に異常所見は認められない、エックス線所見として、頸骨中枢側にわずかに骨硬化像が認められるが、関節裂隙の狭小化・骨棘形成・骨嚢胞形成などは明らかでない。
(二) 診断名については、原告の愁訴、年齢、エックス線所見などより極めて軽度の変形性膝関節症とした。その変性の程度は、エックス線分類上、Appel分類のGroup〇ないし一(〇はエックス線上は正常、一は骨変化はないが間接裂隙の軽度狭小化、著しい間接裂隙狭小化、大腿顆部偏平化・骨硬化像、三は間接裂隙消失・骨嚢包形成、骨硬化像・骨棘形成・大腿骨亜脱臼)、Kellgren&Lawrence分類のGrade〇ないし一(〇は変化なし、一は疑いあり、二は明らかに変化あるも軽度、三は中等度、四は重度)に相当する。
(三) 外傷や就労による部分的な過重負荷が膝関節に長期間にわたって存在し、これにより原告に変形性膝関節症が発症したとすれば、より明らかな他覚的所見及びエックス線所見が得られるが、原告の場合、他覚的所見をほとんど見出し得ず、明らかに病的な膝関節と判断するには情報が少ない。したがって、就労内容や外傷によることが明らかな変形性膝関節症とは言い難い。
(四) 原告の残存障害の程度については、関節可動域及び動揺関節などの観点からみて障害等級一二級の七には該当せず、また、左膝関節の病態やエックス線所見からみて障害等級一二級の一二にも該当しない。単に膝関節部の神経症状残存として障害等級一四級の九に該当する。
4 東京厚生年金病院伊藤晴夫医師は、原告の残存障害について、各医証及びエックス線所見を参考にしたうえで、次の意見を述べている。
(一) 原告の残存障害は、自覚的には自発痛と力の低下による労働能力の低下であるが、他覚的には関節可動域に制限がなく、関節の動揺性、腫脹も認められず、膝内側に圧痛が認められるのみであり、エックス線所見においても外傷による異常所見は見い出せないことからすれば、障害等級一四級の九に該当する。
(二) 変形性膝関節症については、一般的には加齢変化によるものであり、長期間の過激なスポーツ、特殊な労作、事故、リュウマチ及び骨壊死等の疾患、二次的には膝内障による関節の動揺性の残存及び半月板の障害により発症することもある。原告の場合、治ゆ時点におけるいずれの所見をみても、関節の動揺性及び半月板の障害としての所見が記載されていない。また、昭和五八年三月から昭和五九年一〇月までの間の株式会社クニトモにおける作業期間及び負担の程度で、変形性膝関節症が発症したとは考えがたい。就労によって変形性膝関節症が発症する場合には、明らかな他覚的所見やエックス線所見が得られるが、受傷後に撮影されたエックス線写真(昭和六一年五月一九日から平成三年六月一日までのもの)からは加齢による変化以上のものは認められない。したがって、仮に、原告の治ゆ時点の疼痛が変形性膝関節症に起因するとすれば、本件事故による左膝関節内障としての障害とは区別されるべきである。
三 原告の左膝部に残存する疼痛等の神経症状が障害等級一二級の一二(局部に頑固な神経症状を残すもの)に該当するか、それとも障害等級一四級の九(局部に神経症状を残すもの)に該当するにとどまるか。
1 労働者災害補償保険法施行規則別表第一の障害等級を認定するについては、通達により行政解釈の基準となる認定基準が発せられていて、具体的な障害等級認定の基準が定められているが、この認定基準においては、受傷部位の疼痛に関して、障害等級一二級の一二は「他覚的に神経系統の障害が証明されるもの」で「労働には通常差し支えないが、時には労働に差し支える程度の疼痛が起きるもの」をいい、障害等級一四級の九は、「労働には差し支えないが、受傷部位にはほとんど常時疼痛を残すもの」をいうものと解釈されている。
右の認定基準によれば、障害等級一二級の一二と一四級の九の区別については、受傷部位の疼痛を医学的に証明しうる他覚的所見の有無及び労働能力に及ぼす支障の程度がその判断基準となるが、右の認定基準は障害による労働能力の喪失に対する損失てん補という障害補償制度の目的、同一等級に定められた他の障害との対比などから合理性が認められるから、原告の残存障害の障害等級についても、これに従って判断するのが相当である。
2 そこで、前記の医学的所見から原告の左膝部に残存する障害の状態をみると、自覚的症状として左膝部の疼痛があるが、他覚的には左膝関節の運動可能領域に制限がなく、膝関節の動揺性及び腫脹が認められず、エックス線所見上も外傷による異常所見が特に見い出せないことからすれば、原告の残存障害は、他覚的所見に乏しい左膝部の神経症状であり、せいぜい障害等級一四級の九に該当するにとどまるものというべきである。
これに対し、原告は、左膝部に残存する疼痛等の神経症状は変形性膝関節症に起因するものであって、二五年間にわたる重量物を扱う作業によって疾患し、本件事故によってその症状が発現したものであるから、「他覚的に神経系統の障害が証明されるもの」として、障害等級一二級の一二に該当すると主張する。しかし、その変性の程度はエックス分(ママ)類上も極めて軽度のものであって、加齢による変化以上のものが認められないことからすれば、右の神経症状が変形性膝関節症に起因するものであると認めるにはなお不十分である。また、仮に、右の神経症状が変形性膝関節症に起因するとしても、二五年間にわたる重量物を扱う作業あるいは本件事故によって原告に変形性膝関節症が生じたことを認めるに足りる証拠はなく、かえって、左変形性膝関節症は一般的には加齢によるものであって、中年以後の年齢層ではその症状の有無はともかくとして膝関節軟骨の変性が認められる割合が多いこと(<証拠略>)、労働によって変形性膝関節症が発症する場合には、明らかな他覚的所見やエックス線所見を得られるところ、原告の残存障害は他覚的所見に乏しい極めて軽度のものであって、エックス線所見上も加齢による変化以上のものが認められないこと、変形性膝関節症は膝関節内障による関節の動揺性の残存及び半月板の障害により二次的に発症することもありうるが、前記のいずれの医学的所見をみても、膝関節の動揺性及び半月板の障害等の所見が存在しないことからすれば、原告の変形性膝関節症は、年齢的に生じた蓋然性の方が高いというほかない。したがって、原告の左膝部に残存する神経症状は、障害等級一二級の一二の「他覚的に神経系統の障害が証明されるもの」ということはできないから、原告の右主張は採用できない。
また、原告は、左膝部に残存する疼痛等の神経症状により重量物を扱う作業などに従事することが困難となり、労働能力が大幅に低下したから、右神経症状は障害等級一二級の一二に該当すると主張するが、障害等級認定における労働能力は一般的平均的労働能力をいうのであって、被災労働者の職業能力的諸条件については障害の程度を決定する要素とはならないものと解されるところ、原告が本件事故当時従事していた大型盤板の運搬・加工作業は肉体的には一般的平均的労働能力を越えるかなりの重労働であるから、本件事故当時に従事していたような重量物を扱う仕事に従事できなくなったということだけでは、障害等級一二級の一二の「時には労働に差し支える程度の疼痛が起きるもの」に該当するということはできない。かえって、原告は、病状固定以前の昭和六〇年四月から約一年間、椅子に座っての作業ではあるがボール盤による加工作業に従事し、更に、病状固定後の平成二年三月から現在まではフライス工として左膝部の疼痛の影響を受けることなく稼働しているから(<証拠略>)、原告は、本件事故当時の様な重量物を扱う労働にこそ従事することが困難になったものの、病状固定後もそれまでと同様機械工としての仕事に従事してきたということができる。してみると、原告に残存する疼痛等の神経症状は、一般的平均的労働に差し支えるほどの態様、程度のものではないから、障害等級一二級の一二の「時には労働に差し支える程度の疼痛が起きるもの」には該当せず、せいぜい「労働には差し支えないが、受傷部位にはほとんど常時疼痛を残すもの」に準じるものとして(原告の疼痛は、階段の昇降時、重量物保持時などに発現するだけであり、「ほとんど常時疼痛を残すもの」にはあてはまらない。)、障害等級一四級の九に該当するにとどまる。したがって、原告の右主張も採用することができない。
3 以上によれば、原告の左膝部に残存する神経症状は、障害等級一四級の九の「局部に神経症状を残すもの」に該当するにとどまり、これを越えるものではないと認めるのが相当である。
四 原告の残存障害として左膝関節に機能障害が存在し、これが障害等級一二級の七(関節機能に障害を残すもの)に該当するか。
1 認定基準によれば、障害等級一二級の七に該当するというためには、関節の運動可能領域が健側の運動可能領域の四分の三以下に制限されていることを要するが、前記のいずれの医学的所見においても、原告の左膝関節の運動可能領域は全くの正常範囲であるというのであるから、そもそも障害等級一二級の七には該当しない。
なお、原告は、原告の左膝に残存する障害は認定基準の「通常の労働には固定装具の装着の必要がなく、重激な労働等に際してのみ必要ある程度のもの」と認められるから、「関節の機能に障害を残すもの」とみなされ、障害等級一二級の七に該当すると主張するが、右の認定基準は下肢の動揺関節ある場合の等級認定に関するものであり、原告の場合、左膝関節の動揺性の所見が見い出せないことからすれば、右認定基準を適用する余地はない。したがって、原告の右主張は採用できない。
四 以上によれば、被告が原告の残存障害を障害等級一四級の九に該当するものとしてした本件処分は適法である。
よって、本件処分の取消しを求める原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用については行訴法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 坂本宗一)